借金返済|破産者への貸金債権との相殺は法律上認められるのか?

入学
平成
14

主文

1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,97万1150円及びこれに対する平成16年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1本件は,控訴人が,被控訴人に対し,建物更生共済契約消滅による返戻金等を支払を求めるのに対し,被控訴人が破産免責の対象となった控訴人に対する貸金債権と相殺したとしてこれを争い,原判決が上記相殺の抗弁を容れ,控訴人の本訴請求を棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴したものである。
2当事者間に争いのない事実は,原判決の事実及び理由の「第2事案の概要」の「2争いのない事実」欄記載のとおりであるから,これを引用する。

第3争点及び当事者の主張

争点及び当事者の主張は,原判決の事実及び理由の「第3争点及び当事者の主張」欄記載のとおりであるから,これを引用する。

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第4当裁判所の判断

当裁判所も,被控訴人の本件相殺の抗弁は認められると判断するものであるが,その理由は以下のとおりである。
1一般に,相殺が有効であるというためには,原則として,相殺の意思表示がされた当時に相殺適状が現存していることが必要であると解するのが相当であるから(最高裁昭和54年7月10日第三小法廷判決・民集第33巻第5号533貢),免責の対象となり,その履行を強制することができなくなった本件貸金債権を自働債権とする本件相殺は,相殺の意思表示がされた当時に相殺適状が現存していないものとして,原則として,その効力を生じないというべきである。
2しかしながら,破産債権者であった者は,自己の有する自働債権が免責の対象となっても,破産宣告の以前から受働債権との相殺につき合理的期待を有しており,かつ,当該受働債権が破産財団に属すべきものであった場合には,特段の事情がない限り,破産法所定の制約の下に相殺することができると解するのが相当である。
なぜなら,免責の効果については,その対象となった債務が消滅するのではなく,その責任が免除されるにとどまる(いわゆる自然債務となる)と解するのが相当であるから,自働債権が免責の対象となっても,対立する2つの債権の存在自体は認めることができるし,時効によって消滅した債権であっても相殺に供し得ると定めた民法508条及び担保権の存続を定めた破産法253条2項の趣旨に照らすと,破産債権者であった者の相殺に対する合理的期待についても一定の保護を与えるのが相当ということができ,他方,破産財団に属すべき財産であれば,免責を受けた者がその満足を得るべき地位にはなく,相殺を認めても免責の趣旨に反することにはならないからである。
3(1)これを本件についてみるに,控訴人は,本件貸金債権と本件返戻金等請求権との相殺につき合理的期待を有していたということができ(その理由は原判決7貢16行目から8貢1行目までに説示のとおりであるから,これを引用する。),また,本件返戻金等請求権は停止条件(控訴人の解約あるいは猶予期間及び復活期間の満了)付権利であったものの,控訴人の解約によって直ちに発生するものであったこと(本件共済契約約款48条1項,41条。
乙5)からすると,本来であれば,破産財団に属すべきものであったということができる。
さらに,控訴人が,破産宣告の申立てにあたり,本件共済契約を解約することもなく,本件返戻金等請求権の存在を失念していたことを考慮すると,本件相殺を否定すべき特段の事情があるとはいえない。
(2)続いて,破産法所定の制約について検討するに,被控訴人の本件返戻金等請求権に対応する債務は,破産宣告後に停止条件が成就したものであることから,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの。
以下「法」という。)104条1号に該当するかが問題となるが,「破産債権者は,その債務が破産宣告の時において期限付である場合には,特段の事情がない限り,期限の利益を放棄したときだけでなく,破産宣告後にその期限が到来したときにも,法99条後段の規定により,その債務に対応する債権を受働債権とし,破産債権を自働債権として相殺することができる。
また,その債務が破産宣告の時において停止条件付である場合には,停止条件不成就の利益を放棄したときだけでなく,破産宣告後に停止条件が成就したときにも,同様に相殺することができる」(最高裁平成17年1月17日第二小法廷判決・判例タイムズ第1174号222貢)と解するのが相当であることから,上記特段の事情の存在がうかがわれない本件においては(本件返戻金等請求権は破産財団に属すべきものであったことは前示のとおりであるから,控訴人が免責を受けたことが上記特段の事情にあたるということはできない。),法99条後段により許容される場合にあたり,法104条1号には該当しないと解される。
よって,本件相殺は,破産法所定の制約に抵触するものではない。
4以上によれば,本件相殺は有効というべきである。

第5結論

以上の次第で,控訴人の本訴請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

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